
令和2年4月1日に施行された改正民法では、これまでの瑕疵担保責任に代わり、新たに契約不適合責任が制定されました。大きな違いは、買主が売主に請求できる権利の範囲が以前よりも広くなったことです。また、契約解除の緩和要件など買主の救済手段が増えているので、従来では難しかった買主からの契約解除の申し立てやそれに関わる訴訟なども増えてくるでしょう。中古住宅を売りたい方にとっては、売買する際に気をつけなければならないことが増えたのです。今回は、不動産売買の際にトラブルを招かないよう、契約不適合責任について説明していきます。
契約不適合責任とは?
売主は、売買契約の内容に合ったものを買主に引き渡す義務を負っています。契約不適合責任とは、この契約において売主が買主に引き渡した目的物が、その種類・品質の点で契約内容と異なっていたり、数量が不足していた場合(契約内容に適合していなかった場合)に、売主が負う責任を指します。例えば買主が雨漏りしていることを知っていて、それを契約書に明記していれば、売主は契約不適合責任を負うことはありません。ですが、買主が雨漏りしていることを知っていても契約書に明記していない、あるいは雨漏りがないことが前提での契約書では、契約内容と異なったものを売ったとして、売主は契約不適合責任を負うことになります。
瑕疵担保責任との違いは?
では、契約不適合責任は従来の瑕疵担保責任とどこが違うのでしょうか。赤字が法改正で変わった部分です。
<売主の瑕疵担保責任に関する見直しについて>(赤字が法改正部分)
買主の救済方法 | 買主に帰責事由あり | 双方とも帰責事由なし | 売主に帰責事由あり |
---|---|---|---|
損害賠償 | できない | できない | できる |
契約解除 | できない | できる | できる |
追完請求 | できない | できる | できる |
代金減額 | できない | できる | できる |
《情報元》法務省:民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-p.43
<目的物に欠陥がある場合における担保責任の内容>(赤字が法改正部分)
売買 | 請負 | |||
---|---|---|---|---|
瑕疵担保責任 | 契約不適合責任 | 瑕疵担保責任 | 契約不適合責任 | |
修理・代替物等の請求 | ✕ | 〇 | 修理については〇 | 〇 |
損害賠償 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
契約解除(催告解除・無催告解除) | 〇 | 〇 | 〇(建物等に制限あり) | 〇 |
代金減額 | ✕ | 〇 | ✕ | 〇 |
《情報元》法務省:民法(債権関係)の改正に関する説明資料-主な改正事項-p.62
改正前の瑕疵担保責任では売買の目的物に「隠れた瑕疵がある」場合、買主は売主に対して損害賠償請求や契約解除ができました。しかし追完請求や代金減額請求はできませんでした。
一方契約不適合責任では、売買の目的物が「契約の内容に適合しない」時、買主は売主に対して追完請求ができます。代金減額請求も可能です。瑕疵担保責任よりも買主が請求できる権利が増えています。
買主が請求できる5つの権利
それでは、買主が売主に請求できる5つの権利について解説していきましょう。
① 追完請求
改めて完全な給付を請求することです。契約不適合責任の中で一番重要な請求権で、引き渡された売買の目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合に、買主が売主に対して目的物の補修・代替物の引渡し・不足分の引渡しを請求できる権利です。不動産取引においては、「修補請求(欠陥箇所の修理を請求できる)」ということになります。例えば、雨漏りしていないという契約内容で購入した住宅が実際は雨漏りした場合、買主は売主に対して「雨漏りを直してください」と請求できるということです。
②代金減額請求
追完請求の修補請求をしても売主が修理をしない時、または修理が不可能である時に認められる、追完請求を補う二次的な請求権です。代金減額請求は「買主が相当の期間を設けて修理を請求したのに修理してもらえない場合」に認められますが、直せないことが明らかな場合は直ちに代金の減額請求が認められると定められています。代金減額請求権は「直せるものは催告が必要」、「直せないもの等は催告が不要」という2段構えの請求権ということです。
③催告解除
催告解除は、追完請求や代金減額請求をしたにも関わらず売主が応じない場合に、買主が催告して契約を解除できる権利です。つまり、売主が追完請求に応じない場合、買主は「代金減額請求」と「催告解除」の2つの選択肢を持っていることになります。契約解除された場合、売主は買主に売買代金を返還しなければなりません。
④無催告解除
無催告解除は、契約不適合により「契約の目的を達しないとき」に限って行うことができます。ただし、若干の不適合程度では無催告解除は認められません。
⑤損害賠償請求
旧民法でも買主には損害賠償請求が認められていましたが、瑕疵担保責任による損害賠償請求は売主の無過失責任(故意、過失がなくても責任を負う)でした。契約不適合責任では、売主に帰責事由(責められる落ち度や過失)がない限り損害賠償は請求されないことになっています。また、瑕疵担保責任の損害賠償請求の範囲は「信頼利益※1」に限られましたが、契約不適合責任での範囲は「履行利益※2」も含まれます。売主が賠償しなければならない損害の範囲が広くなったということです。
※1:信頼利益…契約が不成立・無効になった場合に、それを有効であると信じたことによって被った損害のこと(登記費用などの契約締結のための準備費用など)
※2:履行利益…契約を締結した場合に債権者が得られたであろう利益を失った損害のこと(転売利益や営業利益など)
注意する点について
・完璧な状態で売る必要はありません!
設備に関するものも責任の対象になります。しかし中古住宅の売買で既存の設備を利用する場合、不具合のリスクは高くなってしまいます。設備に関しては契約不適合責任を負わないことを契約書面に明記することが大切です。
・「隠れた瑕疵」が通用しません!
契約不適合責任により「隠れた瑕疵(見えない欠陥や不具合)」が通用しなくなり、売買時に不動産の現状を細部まで知っておくことが重要になります。
・物件の状況を契約書に明記することが重要です!
不動産売買で重要なことは売買の目的物の現状を把握し、その内容をしっかりと契約書に記すことです。瑕疵があること自体ではなく、「契約書に明記されているか」がポイントになります。欠陥がある場合はどのような欠陥があり、その欠陥については責任を負わない旨を契約書に明記することが求められるのです。
・請求期限が変わりました!
瑕疵担保責任では引渡しから1年以内に権利行使が必要だったのに対し、契約不適合責任では「事実を知ってから1年以内に告知すれば足りる(ただし引渡し後5年以内で請求権は消失)」と変わっています。
まとめ~不動産取引におけるインスペクションの薦め~
契約不適合責任は売主がどのくらい現状を把握しているかが重要になります。しかし中古住宅の経年劣化を客観的に把握することは難しいことです。そこでお勧めしたいのがホームインスペクションです。契約不適合責任について理解し、インスペクションを活用して、中古住宅の売買をトラブルなくスムーズに行いましょう。